一滴の価値

水を一滴も使わない100%りんご酢について。例えばりんごの皮や芯がりんごジュースやカットフルーツ工場からでてきます。その所謂ざんさを使用してもりんご酢が出来てしまいます。りんごの濃縮果汁を水で戻した濃縮還元ジュースからもりんご酢が作れます。ジュースでないため、表示はりんごのみでしょう。それは水を使わないりんご酢とは言えません。作り方の一つに、果物の糖分が不足している場合、糖分を補い発酵させます。よくブドウ糖等を加えて糖度を上げて仕込んでいるお酢屋さんもあります。それは不足の糖を加えただけなので、一つの作り方として認められています。りんご酢の原料は1g当たりりんごを300g以上使っていればりんご酢と表示できます。しかし、私は糖分を補う事は、内容が薄まっていると考え、補糖分だけ製品の数量が増える事になるので、非常に違和感があります。
当社のりんご酢「アップル100」は水を一滴も使わず、補糖をせずに醸造しています。原料も生の丸りんごを使用しています。それ以外の成分は無いのです。また、予定酸度にこだわり、6%以上の酸度にできるのに発酵を止めたり、発酵がうまくいって酸度が6%以上になった時に表示が5.5%のラベルに合わせて、水を加え5.5%にするのではなく。出来上がったそのままの原酢を出して、表示を5.5%から6.0%に変更すればいいと私は思っております。
天然の酵母:それぞれの果実には自生している酵母菌がいて、それぞれの風味を生かした発酵をしています。ですから、プルーンであればプルーンの酵母が活動して、特有の香りとプルーン酒を造りだしているのです。よく酒つくりの杜氏が酵母を選んだりしていますが、同じ味のお酒を造る宿命と技術的な進歩によるもので、素晴らしい事です。しかし私どもでは、それぞれの果物や穀物に自生している酵母菌を大切にして、ストレス無く発酵させて、1本1本が味も風味も異なる原酢で良いと思っております。
価値ある酢へ ある生の果実があるとします。それ自体の果実はそれぞれの甘さ(糖度)を持っていて、5%位のものもあれば20%近いものもあります。構成している糖の種類も複雑で、その糖を好んで食べる酵母が果物の中にあり、発酵をします。外から入れる酵母ではなく、出来るだけ、中にある酵母を使いたいのはその為です。人間の都合で押しつけられた環境ではなく、ストレス無く過ごせるマイホームを酵母にも持たせたい。人間の成長と同じで、のびのびとした環境が必要ではないでしょうか
それから、酢の濃さを示す重要な指針は酸度(酸っぱさ)糖度、塩分、その他のエキス分等が上げられます。酢の一滴の価値となんでしょう。美味しさであり、不純物を含まない純粋さであります。また、酢を調味料として使う場合、原料表示は同じ米酢であったとしても、片方は10mlで十分な味が確保できますが、もう片方は20ml入れなければ味を確保出来ないことがあります。10mlの方に私は2倍の価値を感じるのです。不思議なことに10mlの方は合わせ酢を作る場合、他の調味料の砂糖や塩、醤油等の使用量少なくてすみます。米酢の原料が米と米麹なので、米の使用量が多いと米麹の自然な甘さや、やはり麹を使用する醤油等とも旨みが共通するのではないでしょうか、塩は塩梅の言葉の通り、酢の濃さで塩の使用量が少なくて済むのは、昔から知られていることです。また、酢の濃さを表す酸度は4.2%以上であれば良いので、4.2でも6%でも米酢は米酢です。糖分、米酢の糖分は米麹の糖化発酵に由来します。米の使用量が少ないと酢に含まれる糖度は少ない事になります。日本農林規格では1g当たり40g使用していれば良いとありますが、副原料を使用しない限り酸度の確保は出来ませんので、通常120g以上の米を使用します。確かに120gでも米酢はできます。経済的につくるには米の使用量が少ないほどいいからです。しかし、黒酢は180g以上使用し、2年位熟成させる必要があります。ではそれ以上の米から酢は作れないのでしょうか?200gでは?300gでは?400gでは?500gでは?1g当たり500gというともう見た目、ちょっと固いお粥のようです。現実問題として300gで作るとアルコールが高すぎて酢酸発酵がしない場合がありますが、うまく仕込んでゆくと発酵し酸度が7〜8%の高品質の酢ができます。それでは400gではどうでしょうか。もう、糖度が濃すぎてうまくアルコール発酵が行われるか難しいです。3段仕込みならぬ5段仕込みで何とか苦労してアルコール発酵にもってゆくと焼酎並のアルコール度数になります。しかし、ここからは薄めない限り、酢酸発酵は難しい・・いやはっきり言って何年経っても酢にならないでしょう。それではどうのようにして400gの使用量の酢を作ればいいのでしょうかやはり他段階仕込みと並行複発酵を利用するしかないのではないかと思うのです。並行複発酵とは・・・酢の発酵のメカニズムは糖化→アルコール発酵→酢酸発酵です。葡萄酢等はぶどうが最初から十分な糖度を保っていますので、ほぼ単純なアルコール発酵を経て酢酸発酵に至ります。米酢はお米自体が米麹を利用することにより糖分を得ることができます(糖化発酵)その糖分は発酵の前期、アルコール発酵中も作られているので、それを並行発酵をいいます。さらにアルコール発酵の途中から酢酸発酵が始まるので、この3つの発酵が並行して行われるので並行複発酵といいます。これらの発酵は発酵の元となる物質の濃度に左右されるので、糖度、アルコール、の濃度が高すぎると発酵障害を起こします。菌数が減少して、勢力を盛り返すのに難しいところです。このような難しい発酵もうまく行くと非常に濃い酢ができてきます。さらさらしてなくて、たらりとした酢なのです。私はこのような、濃さの限界に挑戦し、価値のある酢を作ってゆきたいと思います。
食品添加物・・酢に使われる食品添加物は、醸造用乳酸、澱下げ剤、濾過剤・活性炭等で、別に添加されていても一切の害はないようですが、何より自分や家族を始め、お客様の口に、余計な薬品を入れたくないとの思いがあります。太古の昔から酢は作られていて、その時代はそんな物は無く、せいぜい諸味臭さを消すために炭を入れていた位でしょう。そんな昔の作り方では、品質もばらばらだし、第一失敗が多いので、コストがかかりすぎるから、今時誰もやりません。しかし、この北海道という寒すぎる大地では本州と比べ、冷涼なる気候のお陰で、失敗が少なくてすむのではと思いました。そういえば、農家の人でも、本州で使用される農薬の1/3程度の量で作れるといいますから。表示しなくてもよい食品添加物等一切使わないで作ってみようと思いました。しかし、それは大変な困難な道でした。発酵初期に腐敗を防ぎ、順調に発酵させる醸造用乳酸を添加しないと・・・酒母作りや3段仕込みだけでは、あれれ、発酵がうまく行かない?失敗したかも?が続きました。1/3程度のもろみが失敗でした。しかし、成功したもろみと大切に発酵に導くとうまくいきました。大きな仕込みはできません。失敗したら全滅ですから、小さい仕込みをせっせとするだけです。その為、原料は果物のみか穀物のみの純粋な酢を作り上げる事ができたのです。やはり、作る桶の何%は駄目になりロスが多い事となりますが、その中でも私の目指す価値のある酢ができてきています。
古式醸造とは 醸造方法が近代化され製麹機やこしき、濾過器等が改良され、優秀な機械が多くなってまいりました。食品添加物や酵素が整備され、同質の品質で優れた食酢が多くなってきているようです。麹作りの職人も機械の動きを見てボタンを調節するだけだコンピューター制御された発酵をできるようになってきています。どこでも昔は麹を作り、麹作りが発酵の決め手と言われてきました。が、今では酵素を加えて発酵させている所が多いようです。そういった時代の流れの中で、私は何故か機械化が好きになれず、昔からの作り方に固執しています。麹作りは床揉みを重要視して、いかに人の手で米や麹を揉むかに命をかけています。温度や湿度の管理もコンピューターで自動に調節されるのではなく、実際に良く観察してから、判断します。麹作りの時は麹室の近くで寝泊まりし、何時でも麹の様子が見れるようにしています。また、道具もこだわりたいと思います。近代化の前の江戸時代にはほどんどが木製の器具が使われていたと思います。その頃の道具でも十分自分に納得がゆく食酢作りが出来ると思います。職人が手間を惜しむようになったらおしまいです。職人は体を酷使します。常に腕や腰が故障しやすいのですが、良い酢ができればそれも吹っ飛びます。日本に一人くらい大昔の作り方を目指してもいいのではないでしょうか

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